お揃ひの病衣明るし更衣*
制服のくらし解かれし更衣
衣更へてマネキン手足貰ひけり*
更衣尼僧の袂風に舞ひ*
更衣鏡に薄き胸を張る
結局は妻の意見に更衣
自販機の茶もコーヒーも更衣
更衣で「ころもがえ(ころもがへ)」と読みます。寒い季節に向かうときもあるはずですが、俳句では夏物に替えることをいい、当然に夏の季語となります。
最初の句は平成8年の発表で、平成13年の入院よりも前の句ですから、五十代の心筋梗塞の入院のときを思い出しての句でしょう。
最後の句は、自動販売機の飲物がホットからアイスに変わるタイミングに着目した句と思います。
五箇山の夏が囲みてびんざさら
浜風に浄め塩舞ひ夏に入る*
山頂がお神酒をあびて夏に入る
浄め塩浜風に散り夏来る
夏の葬借る山門の蔭と風
断続の工具の唸り夏真昼
夏めくや襟足青きバスガイド*
首かしげ書かるるカルテ半夏生*
最初の句の五箇山(ごかやま)は、富山県の南砺市にある地域で、『こきりこ節』などの民謡の宝庫。ささらは竹や木で作った楽器で、「びんざさら」は『こきりこ節』で使います。
最後の句の半夏生(はんげしょう)は半夏(烏柄杓=からすびしゃく)という薬草が生える頃で、7月2日頃。近畿では半夏生の日に蛸を食べる習慣がある、といってスーパーなどで売り出しています。
うつかりと口滑らせし暑さかな
穂ばらみの田に暑してふ笑顔あり
日盛りの不動の焔に水かける
旱茄子写楽の顎の並びゐる
磴長し手摺の灼けてをりにけり*
点字板灼けし切手の販売機
水道翁の正装像や油照り
日盛り(ひざかり)は太陽が盛んに照りつけるとき、夏の午後の暑い盛り。不動明王は焔(ほのお)を背負っていますが、その焔に水をかけたくなる暑さ。
旱茄子(ひでりなす)は浮世絵師の写楽が描く人物の顎に似ていたのでしょうか。なお、単に茄子だけでも夏の季語です。
最後の句の水道翁というのは中江種造。豊岡藩の下級武士の子として生まれ、やがて鉱山王となり、上水道建設費として豊岡市に高額の寄付をしました。豊岡市街地の寿公園(ロータリー)には、中江翁の像が設置されています。
炎天の磴のぼり来て仁王顔
炎昼や公園の機関車動きそう*
炎昼やボックスに反る電話帳*
炎昼やシート被りし滑り台*
炎昼や仁王のまなこ血走りて
炎昼や四神の庭に風の道
炎昼や御足に届くよだれかけ
炎昼は真夏の昼。豊岡市のSL公園には蒸気機関車が設置されていて、公園名の由来になっています。
三番目の句のボックスは電話ボックス。近年は携帯電話の普及で減りましたが、ガラス張りで陽当たりがよすぎて、熱で置かれていた電話帳が反ることもありました。
下から二つ目の句の「四神の庭」というのは、丹波市の石像寺の「四神相応の庭」のこと。東に青龍、南に朱雀、西に白虎、北に玄武という四方を守護する霊獣にちなんだ石を中心にした庭です。