父の句・夏(20)
向日葵や日差し燿く道路鏡*
向日葵の切花かくも香るとは*
幸せの裏側見えず大向日葵
靴の砂浜昼顔へ戻しけり*
神木に風蘭の香のありにけり
捩花の風に素直な前うしろ
捩花の螺旋の彼方昼の月
首洗池の辺に濃き捩り花
中立を越え右巻も捩り花
向日葵(ひまわり)や浜昼顔は、当然夏の季語として。
風蘭はラン科の着生植物で、土の地面ではなく樹木や岩の上に着きます。
捩花(ねじばな)もラン科で、捩り花ともいいます。小さな花が螺旋状に茎に巻きつくように咲きます。右巻きも左巻きもあるようです。
牡丹園の順路外れし忠魂碑*
染み浮きしより崩れ初む白牡丹*
牡丹は蕾のままに法話かな*
牡丹や開け放たれし庫裡障子*
茶菓並べ牡丹の風通しけり
牡丹色問はれてはずむ色談義
御手洗に牡丹浮かべてありにけり
牡丹寺作務衣とタオル干しありぬ*
本堂の風動かざり牡丹寺*
牡丹寺出れば戻れぬ回転扉
寺牡丹句帳が順路逸らせけり
牡丹は初夏の花。俳句の字数合わせか「ぼうたん」と読むこともあります。
牡丹の名所は各地にあるようで、但馬でも豊岡市日高町に牡丹寺とも呼ばれるところがあります。
沙羅散るや夜来の雨の石畳*
沙羅の花蝶番錆びし勅使門
沙羅の花喪服の揚羽舞ひにけり
寄せ仏庭に沙羅咲く資料館
本堂の前でおしやべり沙羅の花
散るままにおくも供養よ沙羅の花
ナツツバキ(夏椿)は、釈迦が入滅したとき一瞬にして枯れたという伝説で有名な木に似ているということで、沙羅双樹、沙羅などとも呼びます。
ただし、本物のサラソウジュは、日本のような気候では温室でもないと育たないそうです。
石楠花の寺へパトカー熊出でしと
主病んで棕梠ほろほろと花こぼす
戦友会の解散ばなし夾竹桃
石楠花(しゃくなげ)はツツジに近い種類ですが、あちらは春の、こちらは夏の季語となっています。
夾竹桃は夏の間、かなり長期間、花を楽しめますが、父が参加していた戦友会は、そういう夏の間に開催されることが多かったような気がします。最後の句は平成9年の発表で、父がまだ元気だった頃ですが、すでに戦後半世紀を過ぎ、メンバーの高齢化などから解散ばなしが出ていたのかもしれません。