父の句・秋(7)

長江で聞く故郷の秋出水
秋出水下水噴上げ始めけり*
警報の地区聴き分くる秋出水*
空白んで小波に流れ秋出水*
炊出しに檀徒の奉仕秋出水*
身一つを大事に予後の秋出水*

 

 秋出水(あきでみず)は、台風や集中豪雨などの雨で水があふれること。最初の句は、平成2年、父が中国旅行中に台風が来たときのことです。
 後の五句は、平成16年10月の台風23号以降に作られた句です。豊岡近辺も多大な被害を受けました。下から二番目の句は、無事だった寺が、浸水が酷かった地区向けに炊き出しを行ったことを踏まえた句でしょう。

 

月の出を月点前にて待ちにけり
申し分なき月の出に掌を合はす*
野点より月見始まり酒はまだ*
名月が勝手口から今晩は
翳りある名月供の星一
月雲に薄茶の順の回り来る*
妻を呼んで物干台の良夜かな
讃美歌の聞こえて来たる良夜かな

 

 単に「月」というと、俳句では秋の季語となります。
 最後の二句の良夜は月の明るい夜、特に中秋の名月の夜をいいます。

 

雨月らし相伴ざきに済ましけり*
トンネルを抜けて雨月の但馬かな*
芋団子皿に盛りあげ無月かな
無月らし厨へ戻す供物
ゆつくりと酒を酌みゐて無月かな
天気図を見て待宵に祀りけり*
但馬にも雲切るる刻十三夜*
耶蘇集ふ隣の二階十三夜

 

 雨月は、旧暦8月15日の中秋の名月が雨で見られないこと。曇って月が隠れているのは無月です。
 下から三番目の句の松宵は旧暦8月14日の夜のこと、またはその夜の月のこと。
 十三夜は旧暦9月13日の夜で、その夜の月は十五夜に次いで美しいとされます。

 

朝顔はあるがままなる茶会かな
門川の糸瓜の籠へ雑魚寄れる*
居酒屋に釣りし瓢の品定め
言い過ぎはおのれの癖や鳳仙花
いたはりは触れぬことかも鳳仙花*
気短くなりゆく齢鳳仙花*
八つ当りできる妻をり鳳仙花*
鳳仙花タッチで開く自動ドア
触れられたくないこと一つ鳳仙花
余生なほ闘志抱きて鳳仙花

 

 最初の句の朝顔は夏のイメージがありますが、俳句では秋の季語となります。
 二番目の句の糸瓜(へちま)、三番目の句の瓢(ふくべ=ひょうたん)、いずれも秋の季語とされています。
 鳳仙花(ほうせんか)も夏から秋にかけて咲きますが、秋扱いです。この「触れたら弾ける」植物は、父自身の性格などを自分で考えるのによい題材だったのかもしれません。