父の句・秋(12)

濃き霧に鴉の鳴ける陣屋跡*
しばらくは木魚の歩調霧の街*
うなさるる夢は古郷丹波霧*
霧かとも高原ホテル雲の中
見晴らしのよい日はとガイド霧峠
ジョギングの霧より出でて霧に消ゆ
夢千代の傘の先より霧しづく

 

 俳句では、単に「霧」といえば秋の季語となります。
 三番目の句は平成15年1月の発表。前年の9月から10月、11月から12月にかけて入院を繰り返していた頃の記憶でしょうか。
 最後の句の夢千代像は「広島忌」のところで触れたように新温泉町にありますが、但馬らしく傘を持った姿です。

 

秋つばめ群れて電線切れさうな*
鈴生りの秋のつばめに両手振る
空昏し帰燕前夜のねぐら入り*
去ぬ燕おしやべりしきり電線譜
復員の日もかくありき帰燕群*
面会止めの病窓近く小鳥来る*
椋鳥の集団夕日追ひをりぬ*

 

 秋つばめ、南方に帰るつばめは、いずれも秋の季語です。
 「小鳥来る」も秋の季語。秋に来る渡り鳥(冬鳥)は、夏鳥と異なり大群で渡ってくる光景が印象的。下から二番目の句は平成15年1月の発表で、前年の秋から冬にかけて入退院を繰り返したときに作った句のように思われます。
 椋鳥(むくどり)は、日本全体で見れば渡り鳥というわけではありません。一年中見られる留鳥か、あるいは季節によって山と人里を行き来する漂鳥とされています。ただ、北海道で繁殖したものが南の地方に移動するなど、秋に群れが目につきやすいためか、秋の季語とされています(冬の季語とする人もいます)。

 

貝塚を覗く人垣鵙の声*
鵙猛る鍵屋の辻の茶屋木立*
伊賀越えの首洗池鵙高音
登りつつ見上ぐる奇峰鵙の声*
定期便の鵙専用ぞ避雷針*
勤行の聞えてきたり鵙の贄*
迷惑なものも庭木に鵙の贄*
鵙日和轆轤の陶土飛んで粉に
鵙日和棺打ちし石地に返す
鵙高音山名初代の埋め墓

 

 モズ(鵙、百舌鳥)は秋以外にも見られますが、冬に備えて獲物(小型の爬虫類や昆虫など)を木の枝に突き刺して保存する行動が知られていて、秋の季語とされています。
 二番目と三番目の句は、荒木又右衛門らによる伊賀越えの仇討ち「鍵屋の辻の決闘」にちなんだのでしょう。伊賀越資料館の裏手には、仇討ち後にその首を洗ったという池があります。
 下から二番目は、死体を収めた棺を石で釘打ちしたという慣習に基づいた句。ただし、現在は石どころか釘打ち自体をせずに出棺する場合が増えているように思います。
 最後の句の但馬・村岡の山名家の初代・山名豊国の墓は、香美町村岡区の法雲寺にあります。

 

赤い羽根誰にも手振る選挙カー
人形へ一時預ける赤い羽根
それぞれの子らの家風や秋なすび*
落あけびに先達滑る木の根径
食べ頃に早し通草はまだ裂けず*
朝市女ほほづき一枝添へくれし*
菓子に手を出さず鬼灯鳴らしをり*
鬼灯の網目のつつむ朱玉かな
頼りたる木は枝のみに烏瓜
豊の秋みやげは重きものばかり

 

 最初の句の赤い羽根は共同募金のシンボル。秋の季語です。選挙カーの人物も胸につけていたのでしょうか。
 茄子だけなら夏の季語ですが、秋茄子ならもちろん秋。あけび(通草)、ほおずき(鬼灯)・烏瓜も秋の季語。