父の句・冬(17)
街廻るマイク賑やか厄落し*
厄落し癌封じとか竹筒の酒
厄除けの社寺で重ぬる笹の酒*
街廻る厄除車より竹の神酒*
予後の身の頼む巡回厄払ひ*
予後ながら八度目の申厄払ふ*
厄落し、厄払いなども節分の関連で冬の季語とされています。
最後の二句は、平成16年の発表。この年は申年、父は数えの85歳で年男でした。
線香消え水仙の香の仏間かな*
水仙や荒るる日多き日本海
話合はす仮の病名室の花
室の花見舞遅れの悔やまるる*
蝋梅や欠伸に鯉が浮いてくる
臘梅のこらへきれずに匂ひけり*
腰セーターいつか倣つて探梅行
長靴を逆さに干せり四温かな
「室(むろ)の花」は、温室栽培の花のことで、冬の季語です。
ロウバイ(蝋梅、臘梅)は、バラ科の梅に似ていますが、ロウバイ科に属する別の種類です。梅などよりも少し早く、晩冬の季語とされています。
一方、梅(ロウバイではない梅)が咲いていないか探す探梅も、冬の季語です。
最後の句の四温は「三寒四温」より。寒い日が三日続いたかと思えば、ちょっと寒さが緩む日が四日続く。もともとは、中国東北地方などでシベリアからの季節風の周期的な変化について使われていた言葉のようですが、特に日本では、冬の終わりの変わりやすい気候のイメージで使われることがあります。さて、この句では?
皺の手に嬰やはらかし春隣*
黒ずみし松の吊縄春隣*
身辺りの整理始める春隣*
春隣葉ぼたんの蕊盛り上る
あやしいて借る子やわらか春隣
くつぬぎに庭下駄もどる春隣
春近し茶房で開く漫画本
春隣(はるとなり)、春近し、などは、まだ春が来ていないけれど春が隣まで近づいているということで、冬の季語となります。最初の句は、前の句集で春の部に入れていましたが、冬に変更します。
下から二番目の句の「くつぬぎ」(沓脱ぎ・靴脱ぎ)は、玄関や縁側など履物を脱ぐ場所のことで、転じてそこに置く「くつぬぎ石」を指します。我が家が生活していた頃の国鉄宿舎のどこかには、小さいながらも縁側があって、その庭側に平たい石があったように記憶しています。サンダルや下駄などがその上に置いてありますが、雪が降るようになると姿を消します。春が近づくと戻る、そういう情景が思い浮かびます。